松山大学 大内 裕和 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (資料)現行の教育基本法と与党教育基本法改正に関する検討会「中間報告」 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――2004.7.19 [教育基本法(1947年3月31日)] | [教育基本法に盛り込むべき項目と内容について] | | 与党教育基本法改正に関する検討会においては、これまで教育 |基本法に盛り込むべき項目及ぴ内容について検討を深めてきた。 |検討にあたっては、次の4点を前提としてきた。 | |@教育基本法の改正法案は、議員立法ではなく、政府提出法案で | あること |A改正方式については、一部改正ではなく、全部改正によること |B教育基本法は、教育の基本的な理念を示すものであって、具体 | 的な内容こついては他の法令に委ねること |C簡潔明瞭で、格調高い法律を目指すこと教育基本法に盛り込む | べき項については、次のようにした。(別紙) | | 各項目に盛り込むべき内容については、現時点でのとりまとめは | 別紙のとおりである。なお、それぞれの項目及び内容については、 |・現行法前文中の「憲法の精神に則り」の扱いについて |・国を愛する心について |・宗教教育及び宗教的情操の内容と扱いについて |・義務教育制度について、特にその年限の扱いについて |・中等教育の意味と高等学校、大学の位置づけ |・職業教育について |・幼児教育と家庭教育について |・教育における国と地方の役割について |・私学振興と憲法第89条とのかかわりについて |・教育行政における「不当な支配に服することなく」について |・学校教育における学習青の責務について |などの論点があり、さらに検討を要するものである9 われらは、さきに、日本国憲法を確定し、 | 民主的で文化的な国家を建設して、世界の平 |○法制定の背景、教育の目指す理想、法制定の目的 和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示 | ※「憲法の精神に則り」の扱いが検討事項 した。この理想の実現は、根本において教育 | ※現行基本法が日本国憲法との密接な関係を明記するのに の力にまつべきものである。 | 対し、「改正」内容の多くが違憲。改憲を目指す立場との われらは、個人の尊厳を重んじ、真理と平 | 関係。「改正」派にとって、前文はまったく異なるものにす 和を希求する人間の育成を期するとともに、 | る以外にない。 普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造 | をめざす教育を普及徹底しなければならない | ここに、日本国憲法の精神に則り、教育の | 目的を明示して、新しい日本の教育の基本を | 確立するため、この法律を制定する。 | |[教育の目的] 第1条(教育の目的) | ○教育は、人格の完成を目指し、心身ともに健康な国民の育成を目的とすること。 教育は、人格の完成をめざし、平和的な国家 | ※「平和的な国家及ぴ社会の形成者として、真理と正義を愛し、 及ぴ社会の形成者として、真理と正義を愛し | 個人の価値をたつとぴ、勤労と責任を重んじ、自主的精神 個人の価値をたつとび、勤労と責任を重んじ | に充ちた」の現行法の基本理念を[削 除] 自主的精神に充ちた心身ともに健康な国民の | →したがって、教育はこれらの否定を目的とする。 育成を期して行われなければならない。 | →教育の目的は、自主的精神を持たない国家に従順な「国民の育成」。 第2条(教育の方針) | [ 教育の目標 ] 教育の目的は、あらゆる機会に、あらゆる場所| ○教育は、教育の目的の実現を目指し、以下を目標として行われるものであること。 において実現されなければならない。この目的| を達成するためには、学問の自由を車童し、実| @真理の探究、豊かな情換と道徳心の酒養、健全な身体の育成 際生活に即し、自発的結神を養い、自他の敬愛| A一人一人の能カの伸長、創造性、自主性と自律性の禰養 と協カによつて、文化の創造と発展に貢献する| B正義と貴任、自他・男女の敬愛と協カ、公共の精神を重視し、主体 ように努めなければならない。 | 的に社会の形成に参画する態度の種養 | A勤労を重んじ、職業との関連を重視 | E生命を尊び,自然に親しみ・環境を保全し、良き習慣を身に付けること | E1.伝統文化を尊重し、郷土と国を愛し、国際社会の平和と発展に寄与する態度の涵養 | E2.伝統文化を尊重し、郷土と国を大切にし、国際社会の平和と発展に寄与する態度の涵養 | ※「道徳心の涵養」「公共の精神」「良き習慣」等 | ― 内心と日常生活への介入 | ※「能力の伸長」「創造性」「自律」 | ― 新自由主義と能カ主義 | ※「健全」??? | ※「伝統文化を尊重」「郷土と国を愛す」 | ―愛国心の強制 | 第3条(教育の機会均等) | [教育の均等] | @すべて国民は、ひとしく、その能カに応ずる| ○国民は、能カに応じた教育を受ける機会を与えられ、人種、信条、性別等 教育を受ける機会を与えられなければならない| によって差別されないこと。 ものであつて、人獲、信条、性別、社会的身分| 経済的地位又は門地によつて、教育上差別され| ない。 | A国及び地方公共団体は、能カがあるにもか | ○国・地方公共団体は、奨学に関すろ施策を講じること かわらず、陸済的理由によつて修学困難な者に| 対して、奨学の方法を講じなけれぱならない。| ※「すべて」「等しく」「なけれぱならない」を削除。「社会 | 的身分、経済的地位又は門地」による差別禁止を削除。 | 「経済的理由による修学困難への奨学」義務も削除。 | ― 国家に課された機会均等義務を全面杏定 | 第4条(義務教育) | [ 義務教育 ] @国民は、その保護する子女に、九年の普通 | ○義務教育は、人格形成の基礎と国民としての素養を身につけるために行 教育を受けさせる義務を負う。 | われ、国民は子に、別に法律に定める期間、教育を受けさせる義務を負うこと。 A国又は地方公共団体の設置する学校におけ | ○国・地方公共団体は、義務教育の実施に共同して責任を負い、国・公立 る義務教育については、授業料は、これを | の義務教育諸学校の授業料は無償とすること。 徴収しない。 | | ※「国民としての素養」― 国家の定める国民像 | ※「保護する子女に」――「子に」 | ※「九年の義務教育」――「別に法律に定める期間」 | ※「国・地方公共団体は、義務教育の実施に共同して責任」(権限問題にすりかえ) | 第5条(男女共学) | 全部削除 男女は、互に敬重し、協カし合わなければな| らないものであつて、教育上男女の共学は、認| ※男女平等と男女平等教育の否定。 められなけれぱならない。 | ※自民党憲法調査会は、憲法24条の婚姻・家庭生活にお | ける両性の平等を見直すことを提言。(2004年6月10日) | 第6条(学校教育) | [ 学校教育 ] @法律に定める学校は、公の性質をもつもので| ○学校は地方公共団体及ぴ法律に定める法人が設置できること。 あつて、国又は地方公共団体の外、法律に定め| る法人のみが、これを設置することができる。| ○学校は、教育の目的・目標を達成するため、各段階の教育を行うこと。 | | ○規律を守り、真撃に学習する態度は、教育上重視されること。 | | ※「公の性質をもつもの」を削除。 | ― 教育の公共性を否定。「株式会社立学校」等、新自由主義的市場原理を前提。 | ※「規律を守り、真撃に学習する態度」 | ― 学習者の責務。態度の強制。=「切捨て」を前提。 | A法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者で| あって、自己の使命を自覚し、その職責の遂行| ○教員は、自己の崇高な使命を自覚して、研究と修養に励むこと。 に努めなければならない。このためには、教員| 教員身分は尊重され、待遇の適正と養成・研修の充実が図られること。 身分は尊重され、待遇の適正が、期されなけれ| ばならない。 | ※「全体の奉仕者」を削除。 | ―「全体の奉仕者」として、教員個々が職責の自覚に | 基づいて行動するための「身分保証」や「待遇の適正」ではなく、 | 国家が定める「自己の崇高な使命」のために働け。その限りにお | いての「身分保証」や「侍遇の適正」。 | 第7条(社会教育) | [ 社会教育 ] @家庭教育および勤労の場所その他において行| ○青少年の教育、成人教育などの社会教育は、国・地方公共団体によって奨 われる教育は、国および地方公共団体によって| 励されるものであり、国・地方公共団体は学習機会の提供等により振興に努めること。 て奨励されなければならない。 | | A国及ぴ地方公共団体は、図書館、博物館、公| [ 生涯学習社会への寄与 ] 民館等の施設の設置、学校の施設の利用その他| ○教育は、学問の自由を尊重し、生涯学習社会の実現を期して行われること。 適当な方法によつて教育の目的の実現に努めな| ければならない。 | | ※「図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設 | の利用」等予算借置の必要な具体の項目を削除。予算 | 措置義務の削除。 | ※[家庭教育]の項を新設。 | [ 家庭・学校・地域の連携協力 ] ※「家庭は、子育てに第一義的な | 責任を有する」と家庭への責 | ○教育は、家庭、学校、地城等の連携協カのもとに行われること。 任転嫁、かつ一方で、「国・ | 地方公共団体は家庭教育の支 | [ 家庭教育 ] 援に努める」とし、国家・行 | ○家庭は、子育てに第一義的な責任を有するものであり、親は子の健全な 政による家庭敷育への介入を | 育成に努めること。国・地方公共団体は、家庭教育の支援に努めること。 規定する。 | | 第5条(男女共学) | [ 全 部 削 除 ] 男女は、互に尊重し、協カし合わなけれぱなら| ※男女平等と男女平等教育の否定。 ないものであつて、教育上男女の共学は認めら| ※自民党憲法調査会は、憲法24条の婚姻、家庭生活にお れなければならない。 | ける両性の平等を見直すことを提言。(2004年6月10日) | | 第6条(学校教育) | [ 学校教育 ] @法律に定める学校は、公の性質をもつもので| ○学校は、国・地方公共団体及ぴ法律に定める法人が設置できること。 あつて、国又は地方公共団体の外、法律に定め| る法人のみが、これを設置することができる。| ○学校は、教育の目的・目標を達成するため、各段階の教育を行うこと。 | | ○規律を守り、真撃に学習する態度は、教青上重視されること。 | | ※「公の性質をもつもの」を削除。 | ―教育の公共性を否定。「株式会社立学校」等、新自由主義的市場原理を前提。 | ※「規律を守り、真撃に学習する態度」 | ―学習者の責務。態度の強制。=「切捨て」を前提。 A法律に定める学校の教員は、全体の奉仕者 | [ 教員 ] であつて、自己の使命を自覚し、その職責の遂| ○教員は、自己の崇高な使命を自覚して、研究と修養に励むこと。教員の 行に努めなけれぱならない。このためには教員| 身分は専重され、待遇の適正と養成・研修の充実が図られること。 の身分は、尊重されその待遇の適正が、期せら| れなければならない。 | ※「全体の奉仕者」を削除。 | ―「全体の奉仕者」として、教員個々が職責の自覚に | 基づいて行動するための「身分保証」や「待遇の適 | 正」ではなく、国家が定める「自己の崇高な使命」のた | めに働け。その限りにおいての「身分保証」や「待遇の | 適正」。 | 第7条(社会教育) | [ 社会教育 ] @家庭教育及ぴ勤労の場所その他社会におい | ○青少年教育、成人教育などの社会教育は、国・地方公共団体によって奨 て行われる教育は、国及ぴ地方公共団体によつ| 励されるものであり、国、地方公共団体は学習機会の提供等によりその振興 て奨励されなければならない。 | に努めること。 A国及ぴ地方公共団体は、図春館、博物館、 | [生涯学習社会への寄与] 公民館等の施設の設置、学校の施設の利用そ | ○教青は、学間の自由を尊重し、生涯学習社会の実現を期して行われること。 の他適当な方法によつて教育の目的の実現に | 努めなけれぱならない。 | ※「図書館、博物館、公民館等の施設の設置、学校の施設 | の利用」等予算借置の必要な具体の項自を削除。予算 | 措置義務の削除。 ※ [家庭教育]の項を新設。 | ※「家庭は、子育てに第一義的な | [家庭・学校・地域の連携協力] 責任を有する」と家庭への責 | ○教育は、家庭、学校、地域等の連携協カのもとに行われること。 任転嫁。かつ一方で、「国・ | 地方方公共団体は家庭教育の | 支援に努める」とし、国家・ | ○家庭は、子育てに第一義的な責任を有するものであり、親は子の健全な 行政による家庭教育への介入 | 育成に努めること。国・地方公共団体は、家庭教育の支援に努めること。 を規定する。 | [ 幼児教育 ] | ○幼児教育の重要性にかんがみ、国,地方公共団体はその振興に努めること。 | | [ 大学教育 ] | ○大学は、高等教育・学術研究の中心として、教養の修得、専門の学芸の | 教授研究、専門的職業に必要な学識と能力を培うよう努めること。 | | [ 私立学校教育の振興 ] | ○私立学校は、建学の精神に基づいて教育を行い、国・地方公共団体はそ | の振興に努めること。 | 第8条(政治教育) | [ 政治教育 ] @良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教| ○政治に関する知識など良識ある公民としての教養は、教育上尊重されること。 育上これを尊重しなければならない。 | | ○学校は、党派的政治教育その他政治活動をしてはならないこと。 A法律に定める学校は、特定の政党を支持し、| 又はこれに反対するための政治教育その他政治| 的活動をしてはならない。 | ●「良識ある公民たるに必要な政治的教養」 | →「政治に関する知識など良識ある公民としての教養」 | =主権者としての「公民」から、被統治者としての「公民」 | ●「党派的政治教育その他政治的活動」とは、政府や政 | 策を批判する可能性のある教育は、「法の名において断 | 罪する」ということ? | 第9条(宗教教育) | [ 宗教教育 ] @宗教に関する寛容の態度及び宗教の社会生| ○宗教に関する寛容の態度と一般的な教養並びに宗教の社会生活におけ 活における地位は、教育上これを専重しなけれ| る地位は、教育上尊重されること。 ぱならない。 | A国及び地方公共団体が設置する学校は、特| ○国・公立の学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をし 定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動を| てはならないこと。 してはならない。 | | ※宗教に関する「一般的な教養」の教育上の尊重規定 | の挿入。「一般的な教養」を口実として、靖国神社をは | じめとすろ国家神道の学校教育への導入の可能性。 | ※中教審答申等における「宗教的情操の涵養」と「道 | 徳教育」を結ぴつけた「修身」教育。 | 第10条(数育行政) | [ 教育行政 ] @教育は、不当な支配に服することなく、国| ○教育行政は不当な支配に服することなく、国・地方公共団体の相互の 民全体に対し直接に責任を負つて行われるべき|役割分担と連携協力の下に行われること。 ものである。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ●「教育は、不当な支配に服することなく」を、「教育行政は、不当な支配に服することなく」に変更。 ―教育への国家・行政権カの介入を禁じた現行基本法第10条1項の全面的な否定。 ―国家・行政の教育介入をフリーハンドにする一方で、「不当支配」を教職員組合や市民運動等 教育行攻を批判するものに向けられる。教育行政を批判することが「違法」行為に?! ●「国民全体に対し直接に責任を負つて」を削除し、「国・地方公共団体の相互の役割分担と連携協カの下に」に変更。 ―「内容」を含めて、国家が一方的に行う主体者となる。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― A教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的| を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標と| ○国は、教育の機会均等と水準の維持向上のための施策の策定と実施の責務を有すること。 して行われなければならない。 | | ○地方公共団体は、適当な機関を組織して、区域内の教育に関する施策 | の策定と実施の責務を有すること。 | | ※「適当な機関を組繊して」 | ― 現行の教育委員会制度も変更し、行政が直接権限 | を行使するための組織を新設する。 | | [ 教育振興基本計画 ] | ○政府は、教育の振興に関する基本的な計画を定めること。 | | ※[教育振興基本計画]の教育基本法への位置付け | ― 教育内容を含む教育に関する予算措置の権限を文部科学省に一元化する。 | 第11条(補則) | [補 則] この法律が掲げる諸条項を実施するために必| ○この法律に掲げる諸条項を実施するため適当な法令が制定されること。 要がある場合には、適当な法令が制定されなけ| れぱならない。 | |―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― | | 付 記 | ○「教育の目標」中の「国を愛し」「国を大切にし」については、統治機構を愛 | するという趣旨ではないとの認識で一致した。 | ○「宗教教育」についでは、宗教が情操の涵養に果たす役割は教育上尊重される | ことを盛り込むべきとの意見があった。 | ○「教育行政」中の「不当な支配に服することなく」については、適切な表現に | 変えるべきとの認識で一致した。