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      少子化 出生率が上がった町で { 社 説 }
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 保育士が若いお母さんのひざに乗った幼児に話しかけた。「さあ3
匹のヤギのガラガラドンのお話をしましょう」ここは富士山麓にある
静岡県長泉町である。保育園に併設された子育て支援センター「みか
んちゃん」には平日の午前と午後、幼児を連れたお母さんが集まり、
みんなで遊ぶ。子育て支援センターは、幼稚園や保育所に通っていな
い幼児と母親が対象だ。町に3カ 所ある。「子育ての情報を交換でき
る」「子どもが友達と仲良くなれる」と母親たちに評判がいい。
 家にいて子どもを育てていると、だれにも相談談できずに悩みごと
を抱え込みがちだ。さまざまな調査結果を見ると子育ての負担感は、
むしろ働いている人よりも強い。「みかんちやん」は、そんな母親を
支え、力づける交流の場だ。東京へは新幹線で1時間。町内や周辺に
も工場や研究所が並ぴ、若い世代にも安定した働き場所がある。町は
増えつづける共働き家庭の求めに応え、町立、私立合わせて5力所の
保育所を設けでいる。親が共働きなのに保育所に入れない子どもはい
ない。母親が専業主婦の家庭には、子育て支援センターと6力所の幼
稚園がある。
 女性が一生のうちに産む子どもの数を示す合計特殊出生率は、昨年
1.29にまで下がった。人口を維持できる「一家に2人を割り込ん
だのが70年代半ばで、それ以降、落ちつづけている。
 そんななかで、この10年ほど間に出生率が上がった市町村もある。
そのうち人ロ1万人以上の自治体は約70。人ロ4万人弱の長泉町も
その一つである。0・1高まり1・72になった。
 淡路島の西岸にある兵庫県五色町。こちらは農漁業が中心で、人口
は約1万人。この町も出生率が0.1上がって1・82になった。 
 「昔から町で働けるよう努めてきた」と来馬章雄町長は胸を張る。
関西の中堅企業を誘致した。女性の働く場に、と直営の福祉・健康施
設もつくった。子どもを産んでもすぐに働ける。町立の保育所が旧村
単位に5力所もあるからだ。長泉町と同じような子育て支援センター
「かざぐるま」もある。
 2つの町に共通しているのは、若い人の職場があることだ。仕事と
子育てが両立できるよう保育所が整っている。家にいる母親にも、手
を差し伸べている。親の状況に合わせ、きめ細かい子育てへの支援策
が見られる。両町の出生率の上昇からは、地域のあり方しだいで少子
化に歯止めがかかることがわかる。子どもを持つかどうかは個人や夫
婦が決めることだ。しかし、子どもを産みたいと思えない社会は、だ
れにとっても住みやすくはないだろう。少子化の背景にはどんな問題
が潜んでいるのか。安心して子どもを産み、育てられる社会にするに
はどうすればいいか。シリーズで探りたい。      朝日 11/24

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