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         第38回 全国商業教育研究集会 に参加して
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                                        全国商業教育研究協議会 代表理事
                                        中央大学経済学部教授  八幡一秀

 昨年の宮城県松島海岸に続いて、三重県伊勢市二見ヶ浦の浜千代館を会場として、
台風で大荒れの大海原を目前にしながら「第38回全国商業教育研究集会」が開催さ
れました。今年のメインテーマは「未来を拓く商業教育の創造−地域と向き合う豊か
な学びを−」で、地域社会と商業高校との関係がどのように取り結ばれているかを再
確認する格好の機会となりました。
 全国から集まられた先生方からは3日間に11本に及ぶ大変有意義な報告がありま
した。それぞれ地域の特徴を活かされた独自な活動が行われていることに感心されら
れました。さらに、1つ1つの活動が昨年より一層充実した内容となってことには驚
かされました。(詳しい内容は大会報告集をご覧ください)
 2日目の地域社会での活動報告を伺いながら、ご指導されている先生方のご苦労を
感じましたが、それ以上に生徒さんにとっては地域社会と関係を取り結ぶ大きなチャ
ンスですし、計り知れないほど大きな学びの場となっているはずです。
 私のゼミナールは30週の授業以外にも年間14日は大学を飛びだして、商店街の
個人商店、中小企業や業者団体、自治体などへ出かけてアンケート調査やヒアリング
調査を行っています。分析結果は冊子にして公開し、調査地域で開催されるシンポジ
ュームなどで報告することもあります。ゼミ生達も3年間のこれら体験の積み重ねに
充実感を得ると同時に、社会への問題意識が強まっているようです。
 地域社会の協力を得ながら行う教育活動は、色々な面で先生方にとって大変かもし
れませんが、地域社会の「教育力」と一緒に生徒さんの指導を続けられることを期待
しております。きっと、その中から「伊勢河崎商人館」にも見られる地域社会の様々
なリソースを活かしながら、中小企業・住民・自治体が一体となった民主的な組織を
になう若者が育ってくると確信しております。
 2007年度の諏訪市での全国集会でも今年以上に「あつい」議論が展開されるこ
とを熱望いたしております。

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      第38回 全国商業教育研究集会開催される(概要)

    「未来を拓く商業教育の創造 〜地域と向き合う豊かな学びを〜」

 第38回全国商業教育研究集会は、8月7日から9日の3日間、三重県伊勢二見浦
の地で開かれました。近畿ブロックの皆さんは、2月にブロック集会を開き全国集会
を準備してくれました。京都の宮津や福井県などから久方ぶりの参加もあり、全国的
な商業教育の状況を知り合うことができました。参加は30名弱でしたが、充実した
研究協議を行うことができました。
 今次は、標記の集会テーマで持たれ、研究テーマとして、次の5本を提起し、研究
協議を行いました。
 @地域と商業教育                C職業・労働についての学習と生徒の進路保障
  A職業教育としての商業教育       D商業教育としての情報教育
 B魅力ある授業の創造・学校づくり
 詳細については、機関誌『商教協年報2006』で報告しますが、その概要を報告します。

〔記念講演〕

 今年は、「商業教育研究運動の課題」と題して、商教協結成時からの会員であり名古
屋大学名誉教授の佐々木享先生の講演をいただきました。私たちの研究運動の課題整理
と励ましをいただいたあと、「商業の教師自身が商業教育の専門家になるのでなければ、
高校商業教育は一歩も前進しない」として、「商業の教師は商業教育の専門家になろう」
と結ばれました。

〔レポート〕

 レポートは、11本が報告されました。その概要は、本通信(次ページ以降)に紹介さ
れます。全国の豊かな実践を聞くことができました。お忙しい中、レポートを準備され
参加された方々に感謝申し上げます。

〔地域経済学習と伊勢河崎商人館の見学〕
 今次集会の最大のテーマは、地域経済の見方の学習と思い切って1日使って実地見学
を取り入れたことでした。8日午後に、本会代表委員の八幡一秀先生から、「『地域経
済』を見る視点−地域社会・経済を担うのは誰か−」と題する講演をいただきました。
そして地域経済に関連するレポート4本をまとめて報告・討議しました。それは、三重
・四日市商業、秋田・能代商業、長野・諏訪実業、京都・宮津高校伊根分校の実践報告
でした。
 実地見学は、当初は伊勢神宮の門前町「おかげ横丁」を予定していたのですが、ビジ
ネスの成功例という印象が強いので、かつて問屋街として栄えた伊勢河崎の町並みの再
生保存の取り組みにしました。「NPO法人伊勢河崎まちづくり衆」の取り組みです。商教
協の全国集会としては初めての試みであり、印象深い見学でした。

〔協議・課題等〕

  参加の県や地域をさらに増やしていくことも重要な課題ですが、県やブロックを超え
て全国的な商業教育の状況を、互いに確認しあえる全国集会であったと思います。そし
て報告されたレポートは、多くの示唆を与えてくれました。
 私たちはここ2、3年、「商業教育における豊かな学び」をという視点と、地域経済
の活性化と結びついた商業教育・商業高校という視点で、授業づくりや実践を追及して
きました。この取り組みは引き続き実践していく必要があると思います。また、商業高
校卒業生の進路保障の取り組みも重要です。高卒求人倍率が若干改善されたとはいえ、
就職の内容は厳しくなっていると思います。これと関連して、職業と労働の現在の状況
を学び、社会で生き抜いていく真の力を付ける職業と労働に関する教育を、商業教育か
らはどのような内容を構築していくのか、などの取り組みも急ぎ交流してく必要があり
ます。

〔第39回全国集会〕

  来年2007年の第39回全国集会は、長野県諏訪市で開催されます。日程は例年通り、8
月7日(火)から9日(木)です。
 宿舎は、RAKO華乃井ホテル 〒392-0022 諏訪市高島2-1200-3 tel.0266-54-0555
 会議会場は、長野日報社(本社ビル) 同市高島3丁目1323-1 tel.0266-52-2000
 夏休みも諸行事が重なり、日程調整も大変です。早めから日程を調整していただき、
多くの皆さんの全国集会へのご参加をお願いします。        

[ 事 務 局 ]
< 集会レポート概要 > ※ 原則としてご本人にご紹介いただいていますが紙面の都合上                      、原稿を大幅に削らせて頂いたものもあります。ご容赦下さい。

1.法と経済 〜教科通信〜
                                         青森・三沢商業高校    藤 田  知 治

 「経済活動と法」の授業は教科書だけで、かつ条文・事例の説明だけで進めると面白み
の無い授業になってしまいます。もっと日常的な教材を使用し、「学んで良かった」とい
う授業づくりをと思い、教科通信を発行し、授業に役立ててみようと試みました。
 教科書にそって授業は進めるのですが教科通信を投げ入れ教材として使用しました。教
科書では詳しく述べていない出資法、利息制限法と消費者金融の金利の関係、金銭貸借と
連帯保証人問題、最高法規としての憲法紹介、相続のあれこれ、家族・結婚の条件、運転
免許と車の保険契約問題など年間32号の発行になりました。(内容については欠陥だら
けであり、専門用語を厳密にきちんとおさえなければならないなど、名古屋大学佐々木享
先生より貴重なご指摘をいただき感謝する次第です。)

2.家族法の付録 
                                         新潟・堀之内高校     遊 佐  孝 治

 自らの趣味である新聞の切り抜きと、生徒に対するアンケートを活用しながら商業法規
の授業を展開している実践報告。男女差別、夫婦別姓、児童虐待等について、授業で使用
したプリントを紹介。単なる新聞記事を提示するだけではなく、生徒が好んで読みそうな
漫画の一部を引用するなどしてイメージを具体化する工夫がなされていた。特に、授業の
「付録」として、漫画の一部を組み合わせたプリントを大胆に提示しながら生徒に問いか
ける事を繰り返すことで、これまで自分が持っていた「男らしさ」と「女らしさ」につい
てのイメージと、男女平等の考え方とのギャップについて生徒自身に気づかせることがで
きていたようだ。

3.本校の教育課程の特徴と商業科目の現状
                                         北海道・幕別高校     小 林  正 明

 本校は、北海道帯広市近郊の普通高校です。本校の教育課程は、「簿記」「情報処理」
「商品と流通」「マーケティング」等、普通科であるにもかかわらず、商業科目を多く取
り入れています。この教育課程は今年の4月から実施され、特に「商品と流通」は「手さ
ぐり」の状態ですが、地域との関わりを学ばせる上で多くの可能性を秘めていると思いま
す。

4.課題研究レポート発表会 〜発表の様子と評価について〜
                                         気仙沼女子高校(宮城)  杉 本  文 郎

 毎年研究レポートの作成を取り組ませた後に、レポート発表会を行っているが、その様
子のビデオによる紹介と、評価基準についての紹介。発表会はプレゼンテーションソフト
を使用させているが、ソフトの機能(テクニック)に凝りすぎて、レポートそのものの内
容の紹介が十分とはいえないものも少なくない。やはり基本はレポートそのものを充実さ
せる指導に重点をおくことが大切と考えている。

5.
 (1)課題研究での労働教育への取り組み
 (2)地域とともに歩む「函商(はこしょう)」をめざして
                                         北海道函館商業高校    倉 部  静 雄
  (1)課題研究の「2級販売士」講座を選択した生徒に対する、検定以降の取り組みにつ
いての報告。「経済活動と法」の教科担任と連携し、2月に行われる商業経済検定(商業
法規)の選択科目「社会生活に関する法」に焦点を当てて取り組んだ。労働に関する新聞
記事(賃金過少支払いや内部告発、不当労働行為、さらには偽装倒産など)を利用してプ
リントと資料集を作成し、検定対策の答案練習を含めて20時間程度を実施。「経済活動
と法」は専門用語や漢字が多く、教員側も生徒側も難しい教科でしたが、昨今取り巻いて
いる社会状況などを交えて話をすると、生徒も興味を持って話を聞きいてくれます。

  (2)函館商業における教育課程の改変、インターンシップと地域連携、高大連携の取り
組みについて、全道商研で発表したレポートの紹介。商業教育が困難な状況におかれてい
る現状こそ、国民教育としての職業教育が必要である。学校教育法第41条にある、「高
等学校は、中学校における教育の基礎の上に心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門
教育を施すことを目的とする」が基本となっています。つまり、普通教育だけではなく、
専門教育を充実していく必要があるのではないかといえます。

6.授業づくり 〜今年度の工夫〜
                                         愛知・緑丘商業高校    塚 田  忠 雄

「理論科目=覚える科目」という生徒の常識に対する新たな挑戦として、「小さな資料」
で「メモ取り」を重視する2年目の試み。以前はB4判の資料(プリント)で取り組んで
いたが、教科書やノートにはさみ込んでしまうためB5判に改良し、資料の量はハガキ大
とした。また、「法律を学ぶことが堅苦しく、難しいと思うのはなぜだと思う?」「裁判
員制度がまもなく実施されるが『やりたくない』『できれば辞退したい』と思う人が多い
が、その理由は何だと思う?」などをテーマとしたミニレポート欄(3〜5行)を設けて
意見を述べる機会を頻繁に設けているのも特徴。ほかに、緑丘商業における商経科目の履
修実態、スペシャリストについて、愛知県の公立高校商業科に関する入試状況などについ
ても報告している。

7.課題研究「四日市学」
                                         三重・四日市商業高校   山 本  政 己

 今回のレポートは、昨年発表したレポート「課題研究 四日市学 −商店街活性化調査−」
(1学期分)の後編(2・3学期)です。とくに3学期に取り組んだ「町づくり社会実験−商店
街活性化シンポジュウム−」に向けての取り組みをレポートしたものです。シンポジュウム
で使用したプレゼンテーション(調査報告と提案)とシンポに参加された方々の表情をビデ
オで紹介しました。生徒たちへの評価と意見、また商店街活性化の参加者の思いが1時間に
わたって繰り広げられた様子です。
 生徒たちは、シンポが終わって商店街婦人部の方から出されたお汁粉の甘さと感謝のこと
ばに感動するとともに、自分たちが地域に何をしたのかを理解することができたようです。

8.能商直営店「あきんどう」の取り組み
                                         秋田・能代商業高校    齊 藤  隆
 2002年、能代市にTMO能代が設立され、その中に空き店舗利活用検討委員会が設置
された。それが中心となり2003年7月に畠町商店街の一角の閉鎖2店舗を活用し「チャ
レンジショップはたまち」がオープン。その中の一店舗として開店した能商直営店「あきん
どう」の3年間の取り組みについてのまとめ。取り組みに参加した生徒は、実際に店舗経営
や販売活動に携わることによって、教室や教科書で学んでいる生徒よりもはるかにマーケテ
ィングの考え方や知識が身についたように思う。何よりも地域経済の状況を肌で感じたよう
だ。

9.地域に根ざす販売実習 〜交流の輪を広げよう〜
                                         長野県諏訪実業高校    植 松  春 菜
                                                           ( 報告:中村守男 )
 本校での文化祭における販売実習「諏訪ショッパーズ」の様子と「課題研究」において
「おかみさん朝市」へ参加した様子を紹介。(執筆者が研究集会に参加できず、代理で報
告していただきました。来年の諏訪集会では詳しく発表してもらう予定です。)

10.重要伝統的建造物群保存地区 〜伊根町の選定に際して〜
                                         京都・宮津高校伊根分校  上 家  元 寛
 私達の学校が在ります"伊根町"は、若狭湾に面していながら、日本海側には珍しく南に
開けた入り江にあります。そのため、古くから漁業が盛んで、漁船の小さい時代には1階
部分が"舟屋"(船の倉)で2階を住居にしている家屋が湾に沿って群をなしています。今
では、船が大型化し、舟屋は空いている家が大半ですが、その舟屋が連なった景観が、平
成17年7月22日「重要伝統的建造物群保存地区」(以下「重伝建地区」)に、認定さ
れました。
 そのため、昨年度の文化祭では、コンピュータクラブとしてこれをテーマに、調査・発
表しました。「重伝建地区」とはどんな地区で、選定されるとどんな良いことがあるか、
全国の「重伝建地区」には他にどこが(73地区ある)、など調べてみました。また、京
都府には祇園など7地区あり、また伊根町の場合は"海"も含んでの選定で初めての例でし
た。以上のようなことを、手分けをして調査・発表した様子を、今研究会では報告させて
いただきました。

11.課題研究(経済・時事問題)
                                               福井・福井商業高校  長谷川浩昭

 簿記、情報、販売士、秘書検定などの資格取得中心の課題研究講座が多い中で、調査研
究を目的とした「経済・時事問題」を行っている。研究論文をまとめてプレゼンテーショ
ンを行うのだが、しっかりとした形にまとめるには時間がかかるので、2〜3時間でA4
判1枚にまとめていく。そして10分以内で発表するというサイクルで1学期3回行った。
1学年300名中20名の選択者で、おもに進学希望者が小論文対策として学習している。
今後、論文コンクールにも取り組めたらと思っている。

< 伊勢河崎商人館 > 現地見学会&特別講演

 大会最終日の8月9日、研究討議の場を伊勢河崎商人館に移しました。開館9時30分
から10時まで商人館の見学、その後は多目的ホール角吾座(カドゴザ=芝居小屋)でNP
O「伊勢河崎まちづくり衆」の理事、西条利夫さんの「伊勢河崎の町づくりの取り組み」に
ついての講演を聞きました。
 「伊勢河崎町づくり衆」設立の発端は、昭和49年の七夕豪雨後の行政による勢田川改修
工事(歴史的な家屋の取り壊し)反対運動であったこと。河崎の歴史・文化は後世に残すべ
き貴重なものであることを研究者から教えられたことがすべてのはじまりであったとのこと
です。商人館は河崎の歴史を伝え、河崎に人が集い、楽しい町になるための活動であり施設
である。伊勢羽書(いせはがき)は、世界で最も古い紙幣であり、歴史的資料にたいへん貴
重なものである。商人館が伊勢河崎の情報の発信と町づくりの拠点となっているなど丁寧に
語られました。まとめとして八幡一秀(中央大学)先生からは、NPOの財政面での確立や
行政との連携についてのアドバイスがありました。
                                                      現地事務局 : 山 本 政 己

				
	  第39回 全国商業教育研究集会	  予  告		
	  と き  2007年8月7日 〜 9日	
	  ところ  [研究会] 長野日報本社ビル	
	       [宿 泊] RAKO華乃井ホテル	
	       〒392-0022 長野県諏訪市高島2-1200-3	
		       (中央本線「上諏訪」駅下車)		
		

  会員の活動紹介          	

                        秋田教育プランニング

 秋田の籾山昇先生は、高校のサポーターをめざした組織として「秋田教育プランニング」
を立ち上げ、活動していらっしゃいます。学校や教育委員会、教職員組合等の教育関係者が、
直接取り組むことが困難な、いわば「教育の隙間」を埋めることをねらいとしています。具
体的な活動としては、すでに機関紙の発行を行っており、12月にはホームページを開設す
る予定で準備をすすめています。
 10月25日付の機関紙では、「危うさ」への対応と題して、インサイダー取引の疑いで
起訴された投資会社代表の『株でもうけて何が悪い!』との発言を取り上げています。こう
した発言を生み出している社会的背景の「危うさ」は着々と準備された結果であり、「ハイ
リターン」ばかり強調して「ハイリスク」を意識的に避けながら宣伝されていること。そし
て高校教育の中でも「資金の調達」や「人件費」を無視して、模擬株式投資や模擬ベンチャ
ー企業の取り組みがなされていることを指摘しています。
 また、「危うさ」に関して同様の視点で、青森の藤田知治先生が学年だよりとして三沢商
業高校の2年生に働きかけを行っています。藤田先生の学年だよりは、いつもながらの手書
き原稿による味わい深いレイアウトも魅力です。
 現在社会問題となっている未履修問題も、「危うさ」という点で共通点を見いだしている
ようです。お二人のこの取り組みは、2月に開催される東北ブロック集会でも報告される予
定です。                     (文責:宮城・杉本)


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