人口減時代の日本(毎日05.1.6)
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     産んだら取り残される「両立実現」…実態ほど遠く
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 「マザーズ・ランチ・クラブ」。三樹由貴子さん(36)が03年1月まで勤
めていた東京都内の電子機器メーカー本社で、子どもを持ちながら働く母親
が月に1度、昼食を楽しむ会を、そう呼んでいだ。でも、メンバーだった10
人のうち、8人が今は会社にいない。
 三樹さんは99年4月に長女を出産。01年5月まで育児休業を取り、職場に
復帰したら、担当を輸出事務から国内営業に変えられていた。「前のように
輸出事務をやりたい」と訴えたが、日ごろ、育児をしながら仕事を続ける女
性に理解を示していた上司の返事は「無理だ」。その上、02年4月には本社
から営業所に異動。新しい勤務地も都内ではあったが、当時の自宅から遠く、
保育園の送り迎えが不可能になった。夫と相談し、仕事を続けるためだけに
営業所の近くに引っ越したが、「辞めたら」と言われているようだった。
 その年の夏から、本格的なリストラが始まった。営業所から本社に出かけ
た際、久しぶりに「マザーズ・クラブ」に参加したが、「子どもがいる女性
は確実らしい」と話題はリストラに。そして秋になると、三樹さんにも割増
退職金の額が示された。「どうしますか」という担当者に「考えさせで下さ
い」とささやかな抵抗をしたが、その日のうちにメールで退職を伝えた。こ
うして「マザーズ・クラブ」の8人が職場を去った。三樹さんが育児休業を
選んだのは、育児休業から復帰し、育児時短を利用しながら働き続ける女性
社員を見て「子どもを育てながら働ける」と思ったからだ。「口では『子ど
もがいても働き続けでほしい』というが、実は育児をしながら働き続けるこ
とが認められない会社だった」。そういう思いを持ちながら、三樹さんは今、
パートを続けでいる。
 日本の育児休業は「子どもが1歳まで全休する」形が中心。厚生労働省の
調査(02年度)によると、育児のための短時間勤務制度がある事業所は38.5
%、始業・終業の繰り上げ・繰り下げがある事業所は21.6%。子どもが1歳
以上でも利用できるのは、このうちの約半分に過ぎない。
 首都圏に約600人の会員がいる「保育園を考える親の会」の普光院亜紀
代表は「男女が子育でと仕事を両立できるよう働き方を見直すべきだ。子ど
もを産んだ女性が退職をやむなくされたり、昇進が遅れるのを見た若い女性
社員が『結婚しない方がいい』と思うのは当然で、少子化を促すことになる」
と指摘する。
 職場から追い出されないように、手を打つ女性もいる。司法書士の坂井摩
弥子さん(34)は結婚4年半。03年から東京・銀座の事務所に勤務する。終
電での帰宅も、地方公務員の夫(38)は理解してくれる。「仕事、結婚、出
産のすべでを実現したい」。まだ出産だけが実現していない。
 00年に結婚するまで警察庁で働いていた。でも転勤が多く、出産には環境
が良くないと思い退職。ひとまず出産を先送りし、3年間かけで司法書上試
験に合格した。「35歳までに子ども2人」が理想だったが、再就職した時は
33歳。しかも、新しい職場には、産休や育児休業を取った人が一人もいない。
独立や移籍で人の回転がめまぐるしい世界だから、休めば取り残されるかも
しれない。だから、仕事と出産を両立させる対策を練つた。
 04年5月、横浜市で両親と同居を始めた。子どもが生まれても家族の支援
を期待できる。育児休業を取らず、仕事を持ち帰ることも出来るからだ。「
仕事と出産をてんびんにかけない」。坂井さんの決意は固い。
 だが、夫や親の協力が得られる人ばかりではない。都内の都市銀行に勤め
る増田由紀さん(32)は、育児休業中に夫(38)が転勤になり、兵庫県に住
んでいる。今は4月から東京で復帰するため、保育園探し仁忙しい。長女は
1歳4力月。希望の保育園は倍率が3倍を超える。選考で有利になるように
と、今月から保育園近くのマンションを契約する。3ケ 月分の家賃は無駄だ
が、仕方ない。手続きは一人でやっている。4月から別居になる夫は、保育
園に子どもを預け母親が働き続けることに懐疑的だからだ。
 子育でについて夫帰の考え方が違う。「子どもが小さいうちは、母親が見
た方がいい」と言う夫。でも増田さんは「4、5年も席を空けたら、正社員
で採ってくれる会社なんて絶対ない」。今の努力は「保育園に入れても子ど
もはちやんと育つ」ことを夫に分かってもらうためでもある。
 「まずは職場復帰が最優先。私の生き方が分かっでもらわなければ、2人
目は考えられない」       【「未来が見えますか」取材班】つづく
                            05.1.3 毎日

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