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                    第43回 全国商業教育研究集会(報告)

 ◇記念講演◇
      「 内部留保分析から見える日本企業 」
                        駒沢大学 教授 小 栗 崇 資
                 財務会計論・経営分析論・駒大経理研究所所長
 小栗崇資氏は会計学を専攻されていて、企業分析の、その中でも企業の内部留保の分
析から企業の現状分析をされるこの分野第一の研究者である。今回の講演では、巨大企
業がため込んでいる内部留保がどのようなプロセスで蓄積されてきたのか、現実には一
体どの程度の内部留保金が蓄積されているのかの推移と実態について、そしてそれを社
会的に役立てるにはどうすれば良いのかということについて、特に大震災の復興という
観点に立っての問題を提起していただいた。
 内部留保に対して小栗氏は、「内部留保とは、経済学における資本蓄積(剰余価値の
資本への転化)を会計面でとらえた概念で、公表された実質利益の企業内部への蓄積を
いう。さらに資金の留保や含み益、のれん等を加えて広義の内部留保を考えることも可
能である」と規定する。
 その上で氏は、内部留保が持つ問題点と評価点をあげている。その幾つかを挙げてみ
よう。@フローの内部留保に限定していて、ストックを算出していないごとに問題であ
る。A資本剰余金を利益留保に区分する点け評価できるが、その中で資本準備金を除く
ことは問題である。B内部留保に引当金・準備金を加えるのは良いが、利益留保から外
すのは問題である。@自己株式を控除するのは問題である、等と。
 これらのことを踏まえて、では現在の日本巨大企業にはどの程度の内部留保江存在す
るのかということで、『営業報告書』から額を算廿1レその経年的な特徴、蓄積が進行
するに至った基本的な要因等についての分析生果を述べている。
 それによると2010年(資本金10億円以上の企業)では、狭義の内部留保として135.9兆
円、広義のそれは260.7兆円であると言う。近年の特徴としては、長期不況にも開わらず
リーマンショック後も内部留保が仲び続けていること、それも急増であると指摘する。
その原因として人件費の支出に注目する。従業員給付は2001年度の52.0兆円、一人あた
り給付764万円から、2009年度には51、2兆円、668万円と大きく減少している。この減少
分か内部留保へと回り、また企業け設備投資ではなく金融投資へと回すことで、不況期
にも関わらず「大企業においては金余り状況]にあるとの指摘をしている。
 そしてこの内部留保の使途について、企業の会計的責任の観点からか「東日本大震災
への復興資金として活用すべきではないか」と具体的に数字をあげて指摘している。例
えば内部留保のごく一部を、復興資金(国債・課税)に10兆円、設備投資(復興・新規)
に5兆円、雇用・仕事(雇用・下請け支援)に5兆円、合計20兆円を使う事で日本経済と
その企業にとっても大きな意味と意義を持つと。
 このような提起は、まさに慧眼である。何故ならば冒頭にもあるように、内部留保の
源泉は労働から生み出されたものであり、それは社会的に還元されるべきものであるか
らである

<講演・研究協議に関連した著書紹介>
「内部留保の経営分析」小栗崇資 編著 学習の友社
「日本の製造業を分析する― 自動車・電機・鉄鋼・エネルギー ―」 
             丸山尠轣E小栗崇資・古賀義弘・他編著(2010)唯学書房
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基調報告

 現代社会と向きあえる商業教育の創造 〜学指導要領改訂と私たちの課題〜

                                       2011(平成23)年8月4日〜7日
                                             全国商業教育研究協議会            

  昨年の第42回全国集会(北海道・函館)開催を受け、3月に東京集会の準備のための
全国理事会を開催する前日に、東日本大震災と、それと同時の福島第1原発事故が発生
しました。事実上全国理事会は流会となってしまい、また東北地方の理事をはじめ多
くの会員が被災者となり、東北地方の会員の安否が数日間から1週間以上確認できず、
多くの理事・会員の皆さんから心配の声が事務局に寄せられました。大震災と原発事故
の規模や被害の深刻さ、甚大さは発生直後から遠く東京でもひしひしと伝わってきました。
大震災と原発事故の被災者、大なり小なり被害を受けられた理事・会員の皆さんに、
あらためて心からのお見舞いを申し上げます。
 大震災と原発事故が発生した3月11日をもって、いわゆる3.11以後の日本社会全体はか
つてない衝撃を受けたのであり、それはまず被害の規模と甚大さに衝撃を受け、次にまさ
に「人災」そのものの原発事故は言うに及ばず、地震と大津波を天災として受け人れるに
は余りにも被害の大きさと過酷さに、人災の影を見出しだからではないでしょうか。深刻
な被害をしっかり認識して被災者の救済と復旧、新たな復興を考える時、被災者と同じ目
線で、日本の社会を根底から見直すことが求められていると思います。学校と教育の在り
方も、3.11の教訓を基本に据えて考えることが私たちの課題と責務ではないでしょうか。

I 進路を巡る問題

 今年3月末の高卒新卒者の全国就職状況をみると(注1)、内定者は14万1千人で、前年同期
比3.7%増、内定率は9 5. 2%で、同1.3%増、都道府県別の就職内定率は、東京都は9 8. 2%
で、ベスト1位(カッコ内;%は岐阜県(99.6)、2位石川県(99.3)、3位福井県(99.2)、4位香川
県(98.9)、5位富山県(98.7)で、ワースト1位(カッコ内;%)は沖縄県(82j)、2位北海道(85.0)、
3位宮城県(86.6)4位千葉県(90.0)、5位青森県(90.8)となっています。求人数は19万5千人で
前年同期化1.7%減、求職音数は15万7千人で、同2.2%増、求人倍率は1.24倍でほぼ変わらず、
都道府県別求人倍率のベスト1位(カッコ内倍率)ば東京都(4.39)、2位大阪府(2.19)、3位愛知
県(L81)、4位京都府(1.77)、5位広島県(1.72)。ワースト1位(カッコ内倍奉加ま沖縄県(O。57)、
2位高知県(0.56)、3位鹿児島県(0.58)、4位青森県・長崎県(0.64倍)です。ここでも東日本大
震災の影響で東北地方の数字に表れ、また、相変わらず園内の経済政策・産業政策の不均衡が
もたらす地域格差も反映しています。
 大学をめぐる最近の状況をみると、大学学生数(大学院を含む)は288万7千人(前年度より4万
1千人増)、学部学生数は255万9千人(前年度より3万2千人増)。いずれも過去最高です。平成22
年3月の高校卒業生は1 0 7万1千人。大学等(4年制・短大等)の進学率は5 4. 4%(現役・+0.5%)、
うち4年制は50.9%で過去最高、就職率は15.8%(−2.4%)です。大学(学部)卒業生は54万1千人
(−1万8千人)、うち就職者は32万9千人、就職率は6 0. 8%(−7.6%)。進学も就職もしでいない
者は8万7千人(+1万91千人)卒業者の16.1%(+4.0%)にのぼります(注2)。
 商業高校卒業生の4分の1が進学する短大4年制大学をめぐって多くの問題があります。まず、
大学経営では全国の私立大学の4割以上が赤字、大学資金の資産運用損失による含み損は慶応大
学の181億円をはじめ多くの大学みられ、学生募集でも全国の私立大学の4割が定員割れを起こ
しており、地方の私立大学や首都圏の新設大学に定員割れが目立ちます。大学進学率は進学率
15%以下のいわば「エリート段階」(60年代末まで)から15%〜50%「マス(大衆)段階、50%以上
で「ユニバーサル(普遍)化」へ至り、大学進学率は93年まで20%台、05年頃から50%を超え、
大学数は523(92年度)から778(2010年度)へと急増しました。入試選抜は、09年度私立大学入学
者のうち41%は推奨、AO(アドミッションポリシー受け入れ方針による入試。97年以降導入)
は10%、入学定員確保の「青田買い」の面も否定できません。また大学生の「学力低下」も問
題になっており、各大学ではAOの見直しの動きもあり一部ではAOに併せて学力検査を実施し
ています(注3)。
 日本の大学は全体の7割が私立大学で、この数字は国際的にみても突出しており、国は公的
責任を放棄し、大学教育も「教育産業」の場・対象として捉えられています。国民の教育要求
をビジネス・チャンスとする規制緩和政策によって、90年代以降に私大設置基準の緩和と増設
が行われ、大量の新設大学が生まれました。経営優先の側面が大学運営で強調され、教育内容
が後回しになっている面もあり、大学の財務、教育内容の情報公開も遅れています。また、国
立大学の法人化による更なる文科省の規制強化、カネ(私学助成)と人(官僚と民間人配置)によ
る大学自治の崩壊、世界一高い授業料、著しい教育費の家計負担など公的責任を放棄した政策
が実施されています。こうした現状の中、大学進学後の進路不適応や経済的理由による中途退
学も少なくなく、一部にみられる大学進学率至上主義は批判されなけかしげなりません。
 また、今日の若者をめぐる問題をみると、非正規雇用者の割合は15〜19歳では4 6. 4%、40.2%、
20〜24歳では33%、25〜29歳では28%と若年層の非正規雇用の割合が著しく高い状態です(注4)。
完全失業率は15~19歳では9.6%、20~24歳は9.0‰、25~29歳では7.1%と全年齢平均の5.1%を大き
く上回っています(注5)。平成19年度卒業者の就職後3年間の離職率は高卒で40.4%、大卒で31.1%、
就職後5年間(平成18卒)では高卒47.9%、大卒で3 5.9%と商い割合を示しています(注6)。また、
フリーツーの人数は15~24歳は91万人、25~34歳は87万人、合計士78万人(平成21)、若年無業者は
15〜34歳は63万人、35~39歳は21万人で合計84万人(平成2士)に上ります(注7)。以上にみた通り、
日本の生徒・学生や若者にとって教育と職業の機会均等、進路と職業選択の自由、安定した学生生
活と職業生活の保障はほど遠い現実になっています。

U 学校と教育を巡る問題 −新学習指導要領の実施を前に−

 2008(平成20)年に告示された高等学校新学習指導要領は2010(平成22)年度から総則等が一部先
行実施され、2012(平成24)年からは一部教科の先行実施と数学、理科の年次進行が始まり、2013
(平成25)年から本格的な実施(年次進行)が行われます。
高校商業については、何を何のためにどのように学ぶかといった目的・意義・基本方針があいま
いで、教科と教科内容の整理統合が不十分なまま教科数が増やされました。指導要領の改善・改
革にはほど遠いものになっていますが、教科内容の批判的検討を通じ、ビジネス経済などの新設
教科や指導要領に拘束されない課題研究、学校設定科目の可能性を教育現場から追求することが
必要です。
 また、中教審キャリア教育・職貪教育特別部会は、2009(平成20)年12月から設置され、2010
(平成21)年7月に審議経過報告、2010(平成22)年5月に第2次審議経過報告が出され、2010(平成22)
年11月に第30回特別部会を特って終了し、その特別部会の方向を受け、2011(平成23)年1月に中教
審から「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方(答申)」が発表されました(8)(9)。
特別部会での審議や中教審答申は、新学習指導要領の実施に併せた教育政策の展開を示すもので、
「若者の社会的・職業的自立」「学校から社会・職業への移行」を実現することを目的としていま
す。また、特別部会の審議内容や「答申」の一部には、「普通高校で職業科目の履修の保障」「○
○教育という名での上からの押し付けによる学校現場の多忙化」「高等普通教育と専門教育を実施
している職業科は高校の正当な目的を具現化している」「若者に多い非正規雇用の増加、失業率、
離職率の高さが問題」など若者や学校教育、職業教育、経済・社会の現状にリアルな認識をもって
います。 しかし、結局教育政策の維持と現状の追認に終わり、「職業教育の全面的展開]と言いつ
つ強調されているのが「経済成長を支える人づくり」であり、具体的な方針として掲げられている
のが「新しい学校種の設置」(既存の専門学校、専修学校の再編と高等専修学校の「大学化」の構想
で、職業教育・職業訓練の特化しか学校ビジネス・チャンスの創出か)であり、「新しい学校種に頼
らず、既存の政策・学校制度の充実を」「公共の職業訓練施設の充実を」という審議内容に真っ向
から反するものです。「答申」自ら掲げる「若者の社会的自立言学校から社会・職業の移行」とい
う目標の実現は難しいと考えられます。
 「すべての国民は…その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」(憲法第26条、教育
基本法第3条)、「すべての国民は勤労の権利を有し、義務を負う」(憲法第27条)、「高等学校は、
・・・・高度な普通教育及び専門教育を施すことを目的」(学校教育法第50粂)などの憲法や教育基本法
などの理念を中教審路線と文科省の教育政策には、実現する姿勢がありません。したがって、時々
の課題に取り組む基本方針が場当たり的になっています。今回の「答申」も教育と若者が産業界の
ニーズに「応えていない」事の要因をグローバル経済や産業構造の変化や、若者・学生・生徒の意
識の問題に求め、自らの政策、制度の問題に触れようとしません。改正された教育基本法には「精
神、態度を養う」という文言が多用されていますが、教育政策の基本は工記の憲法、教育基本法の
理念を実現すること、そのための条件整備や予算措置を講じ、教育と学校に関する政策、制度の改
革を積極的に行うことです。

V 教育・職業教育の課題

 教育基本法の改正(平成18年)の後、学校教育法をけじめ「教育三岳」(注10)の改正(平成19年)が
行われたことによって、文科省の権限が強化され、公権力の教育現場への介入と中央集権・管理統
制の強化が進みました。文科省から教育委員会への「指示」、副校長・主幹の設置、教員免許更新
制の導入、指導不適切教員の管理廠格化にはじまり、鍛近でば東京都に次いで大阪府でも「目の丸
・君が代」の強制が殆まりました。
 教育現場は「多忙化」とともに学校運営・人事管理の介入・管理強化によって活力と創造性を失
っています。生徒たちの「個性」や「多様性」が尊重されるべき教育現場で、教員の「個性」「多
様性」が否定される矛盾が起きており、結局文科省のめざすのは、それらを否定し学指導要領や検
定教科書による教育活動・授業内容を統制し、生徒に一律の価値観を持たせる教育であり、これで
は文科省自身が口にする生徒の「自立」ですら不可能です。
 今、子どもと若者を巡る環境は、教育、学習、就職、労働、生活どれをとっても劣悪な状態です。
これらの環境を改善し、子どもと若者の成長を保障する環境づくりと具体的な方策が緊急に求めら
れており、特に学びの保証、学習環境の改善を図ることが大事です。本当の「生きる力」と将来へ
の希望を子どもと若者が持つために、本来あるべき職業教育を若者と生徒が十分に受けることがで
きる権利の保証を求めます。そのため教育と学校制度の改善、教育設備の充実、教育予算・教職員
の大幅増を必要とします。さらに教育内容、特に職業教育の内容を豊かに充実させ、高校教育にお
いて普通教育と職業教育が相互の関連性、バランスと多様性を持った教育を展開する必要がありま
す。そのために私たちは、自主的な教育研究活動と教育実践活動を引き続き車の両輪のように展開
していかなければなりません。

W 本集会の課題

 昨年の函館集会(第42回)では、記念講演(丸山恵也立教大学名誉教授)「トヨタのリコール問題と
車づくり」で世界のトヨタの過酷な現場の車づくりとリコール問題で露呈した経営体質は今日の東
京電力のそれと重なり合うものでした。新興国アフリカ、学習指導要領と技術職業教育、学習指導
要領と経済利旧、簿記教育、広域通信制・単位制高校、地域と密着した課題研究やチャレンジショ
ツプ、総合的な学習、企業会計と内部留保、消費税と物品税、経済活動と法の授業報告など、社会、
経済、地域、教育、教科、実践、理論に広くわたった報告・レポートが発表されました。テーマ、
報告の内容は、提起された問題へ参加者の熱心な討議によって更に深りました。
 今年の東京集会(第43回)は、東日本大賞災と東電福島原発事故によって、これまでの社会、政治
経済、教育の在り方を問われる状況の中で開催されます。
 こうした中で、記念講演「内部留保分析と日本企業」(小栗崇資駒渾大学教授)は、今後の日本の
経済、財政、企業、会計から震災復興の在り方までを問う重要なテーマを板ったものです。また、
特別講演「地方自治の関心から大賞災と福島原発事故を考える」(古賀義弘喜悦大学名誉教授)は、
防災安全・安心の実現など住民本位の地方自治と今回の大賞災・原発事故との関連を板った時機に
治ったテーマを扱ったものです。
 また、今回東京集会にすでに寄せられたレポート・報告は、10を超えて、職業教育、商業教育、
キャリア教育、高校教育、大学教育、地域経済に問するテーマなどで、その内容も期待されるもの
で参加者の皆さんの討議・討論でさらに豊富な内容にしていただきたいと考えます。
本集会を通じ滴業教育、経済教育、職業教育、高校教育と研究活動と教育実践のさらなる発展を期
待したいと考えます。

大会日程

 8月5日(金)   集会テーマ 「 現代社会と向きあえる商業教育の創造
                        − 学習指導要領改訂と私たちの課題 − 」

          開会集会  記念講演   「 内部留保分析から見る日本企業 」
                               駒澤大学教授 小栗 崇資
          基調報告

          研究討議T 都留文科大学 村上研一 「 大学における経済史の指導 」

          商教協総会 
          
          レセプション

 8月6日(土) 研究討議U

                  三 重 山本政己「地域経済と商業教育の役割−出会い・ふれ合い・助け合い−」

          北海道 倉部静雄「経済活動と法」での労働教育の取り組み

          香 川 安富稔倫「本校での簿記指導の取り組みについて」

          東 京 星 重光「もし「授業」をするとしたら「3・11」をどう受け止めたらいいのかみんなで考えてみようと思った

          浜松学院大学 戸田昭直「高校教育とキャリア教育−地域再生の「鍵」は子どもたちに」−

          國學院大学・江戸川高校 真嶋康雄「東日本大震災と福島原発事故の授業プリント」

          宮城 気仙沼女子高校 杉本文郎「東日本大震災の被災体験」


        特別講演   嘉悦大学名誉教授 古賀 義広

                        「 地方自治の関心から大震災と福島原発事故を考える 」



 


 
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