未来を語るG
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      「共生の仕組み不可欠」 競争至上主義を批判する
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                       経済評論家 内橋 克人

 ◇日本の将来をどう見ていますか。◆決して悲観はしていない。新たな価
値観を模索する40代以下の世代が育ちつつあり、希望が持てる」 ◇新たな
価値観とは?◆一人の人間の幸せを実現することが他の人間をけ落とすこと
を意味しないこと。他の人間の幸せにもつながるような共生を求める考え方
だ ◇いまの日本社会はそうではない、と?◆人々は強い不安社会の中にい
る。自分が負け組になってしまうのではないかという『落後恐怖症』をあお
る形で、人々はもっと働けとせき立てられている。背景には小泉政権が進め
る『市場競争至上主義』の政策がある。不安社会を克服するのが国の役割な
のに、今の日本は逆だ。その方が活力につながる、という誤った考えがある
 ◇弱者切り捨てが心配なのですね。◆特に心配なのは所得格差、資産格差
が人間が生存していく権利そのものを揺るがす段階に進んでしまっているこ
とだ。競争に勝ち残れない人々が、安全な食料や医療・福祉など生活に最低
限必要なものを手に入れる権利さえ奪われつつある ◇勝ち組と負け組の二
極化が進んでいます。◆いまや日本の上位4分の1の富裕層の所得は、その
他4分の3の層の総所得に匹敵する。米国ほどではないにしても格差拡大社
会が確実に広がっている ◇努力すれぱ報われる、という制度は評価すべき
面もあります。◇努力したものが報われるのは当然のことだ。ただ、現実は
努力したくてもその機会を十分与えられない人が増え、機会の不平等が結果
の不平等を拡大している。努力が報われるという前提条件がすでに破綻して
いる ◇どんなところにその傾向が見えますか。◆正社員のような昇給・昇
格の機会が得られないフリーターやパートが増加していることもその一つだ。
親の年収によっては受けられる教育にも大きな差が出てしまい、潜在的なな
能力を発揮できない人もいる ◇どう変えたらいいのでしようか ◆マネー
資本主義にもとづく、むき出しの市場競争の結果だけに生活をゆだねるので
はだめだ。連帯や参加、共生の仕組みが必要となる。市場を市民の手で制御
しつつ、新しい循環型の経済や社会のシステムを作り上げなくてはならない
◇どこから始めたらいいのでしようか。◆各地で芽吹いている地域の取り組
みにヒントがある。大量生産・大量消費・大量廃棄の仕組みを変え、地域の
資源や人材を活用してエネルギーや食糧、福祉を自給しようとする試みだ。
中には風力やバイオマス(生物資源)などの自然エネルギーで地域の電力需
要をまかなえるところも出できた。高齢化の進行を前向きにとらえ、福祉産
業などで雇用を生んだ地域も多い ◇そういう試みは日本全国に広がりそう
ですか。◆地域で消費者と生産者、市民と企業、NP○(非営利組織)など
が連携すればもっと広がっていくだろう。デンマークなど欧州各国で自然エ
ネルギーが普及しつつあるのも、そうした『市民資本』が大きな役割を果た
しているからだ ◇多くの消費者に受け入れられるでしょうか。◆消費者の
意識改革が進むかどうかがカギを握る。商品を買うときに価格の安さだけに
とらわれず、良質な地域産品が使われているものを選ぶなどの工夫だ。そう
いう自覚的消費者が少しずつだが現れてきている ◇国に求められる役割は?
◆国は地域での新しい試みの芽を摘まないことこそが重要だ。官僚や大企業
があらゆる物事を決めてしまうのでは、多様な人々、多様な地域が共存しに
くくなる。さまざまな試みの積み重ねで、強い者が一人勝ちするような住み
にくい社会ではなくなるだろう
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増える自殺者完全失業率は04年11月で4.5%。5%台だった04年初めごろま
でに比べれぱ少しずつ改善傾向にあるが、企業のリストラ圧力は依然強い。
企業の成果主義や非正規雇用の拡大も働き手に不安を与えている。その影響
か、ここ数年、自殺者が増加している。警察庁によると、03年は約3万4千
人と統計が残る範囲では過去最多、「経済・生活問題」を苦にした自殺が
過去5年で5割ほど増えたのが目立つている。30〜40代の働き盛りの自殺も
多い。内閣府の04年秋の調査では、6割の人が2030年の生活が今より「
悪くなっている」と悲観的な予測をした。不安を感じる理由としては、少子
高齢化や年金問題などによる老後への不安、貧富の差の拡大などがあけられ
たという。
                             朝日 1/9

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